タックスシールドとは?(その2)
こんにちは。会計士の岡内です。
以前、タックスシールドや投資の意思決定についての記事を書きました。
今回は、とある事業の5カ年計画から、実際にタックスシールドを加味した上での投資について解説したいと思います。縦軸にキャッシュ・フロー、横軸に年数という、見る人が見れば分かるアレを使います。
PLベースとCFベース
意思決定の図を作成するにあたり、PL(決算書)ベースで作る方法とCF(キャッシュ・フロー)ベースで作る方法の2つがあります。今回は両方の図を作ったので、それぞれ解説します。
<前提条件>
0年目末に10,000百万円の投資を実行し、1年目期首にすぐに事業へ用いるものとする。
キャッシュ・フローは、全て期末に生じるものとする。
減価償却費の除き、全ての損益取引は現金取引によるものとする。
10,000百万円の投資に対する減価償却費は、耐用年数5年の定額法で毎期2,000百万円とする。これ以外に減価償却資産は無い。
欠損金は無視する。
税率は30%とする。
上図の左側がPLベースからスタートしてキャッシュ・フローを逆算したもので、右側がCFベースからタックスシールドを調整したものです。双方、計算結果は同じになります。
PLベース
決算書ベースはあくまで決算書なので、減価償却費が入っている分だけキャッシュ・フローが一致しなくなります。上図で言えば、現金取引は10,000-7,200=2,800しかなく、そこから税金240を引いたら2,560が残金として残らないとおかしいですよね。税引後利益560との差、2,000は何ですかって言えば、減価償却費の2,000です。減価償却費はキャッシュ・フローを伴わない費用であるため、税引後利益に加算しないとその分だけズレる訳です。税引後利益は560(800-240)なので、ここに減価償却費2,000を加算すれば、2,560になります。
CFベース
逆に、CFベースで計算すると、現金収支2,800に対して税金840生じています。これは現金収支に対して税金を計算しているためです。しかし、減価償却費は税法上も費用として認めてくれるので、実際には減価償却費分のタックスシールドが存在します。そこで、減価償却費2,000分のタックスシールドを調整しています。結果、税金が純額で▲240(▲800+600)になって、残金が2,560(2,800-240)になる訳です。
上記の例では、減価償却費以外は現金取引ということにし、計算を単純化しています。しかし、現実には掛取引があるし、追加投資だって存在します。場合によっては、税額控除や欠損金によって税額が大きくズレることもあるでしょう。そのため、実際はこれらの要因も全て考慮した上で意思決定がなされます。
利回り8.84%は妥当か?
投資の意思決定で最も重要な点は、『結局いくら儲かるねん』という所です。
上図の例であれば、計画通りに行けば5年間で2,800百万円儲かるということになります。利回りで言えば8.84%です。これだけ見れば、実行しようって話しにもなりそうなもんです。
しかし、この利回りって本当に妥当でしょうか?
資金を出した人たちが、平均で10%の利回りを期待していたら、この利回りで納得させられますか?
この、資金を出した人たちが求める利回りを、WACC(ワック)と言います。WACCは加重平均資本コスト(Weighted Average Cost of Capital)の略で、単に資本コストと言うことも多いです。
通常、資金を拠出するのは株主と金融機関です。株主は配当などを見返りとして求めますし、金融機関は金利を求めます。そのため、投資案件がこれらの人が納得するだけの利回りを出せなければ投資は断念する必要があります。
WACCについて書き始めたら、かなり長い話しになるので、今回は割愛します。また機会があれば記事にしたいと思います。
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