免税事業者のインボイス登録は進んでいるのか?
こんにちは、会計士の岡内です。
11月に入りましたね。雨が降るたびに寒くなってきて、そろそろ冬の足音が聞こえてくる季節になりました。
さて、今回は免税事業者のインボイスの登録状況について書きたいと思います。
2023年10月1日開始のインボイス制度とは?
インボイス制度とは、売手が買手に対して所定の要件通りに記載(適用税率や消費税額など)した文書を発行する制度です。
具体的には、現在の請求書や領収書に『登録番号』と『適用税率』及び『消費税額等』を記載された書類やそのデータのことを意味します。
来年の10月1日から、このインボイス制度は開始されます。
今になって少しずつ騒がれていますが、一般消費者にとってはどうでもいい話しです。コンビニのレシートに登録番号や詳しい税率区分などが記載されているだけです。家計簿をつける人には見た目が分かるだけでどうでもよいことです。
しかし、事業者にとっては大きな問題になっています。
益税問題が悪かった
そもそも消費税とは、最終消費者が負担すべき税金になります。そのため、例えば事業者がボールペンなどを買って実際に業務に使ったとしても、消費税の申告をすれば原則として仕入税額として売上高に対する消費税と相殺処理して精算後の消費税額を納付又は還付するという流れになります。最終消費者は、消費税を申告する余地が無いので、買った商品やサービスに含まれる消費税を納付して課税は終了となります。
この消費税ですが、事業者はこれを加味した金額で顧客に商品やサービスを販売しています。そして消費税の申告を行うことで仕入れなどで払った消費税と売上で預かった消費税を相殺して残額を納付又は還付という流れになります。しかし、免税事業者という年間売上1,000万円未満の零細事業者は、そもそも消費税の申告は不要という制度長らくなっていました。事務処理などがそれなりに煩雑になり、売上が1,000万円も無いような事業者には消費税の申告は期待できないだろうという意味がありました。
これは益税問題と言って、消費税導入当初から問題にはなっていました。
益税問題を排除手段
さて、年間売上1,000万円無いような小さな事業者は、お客さんから消費税を貰っておいて、それをそのまま自分の利益にするということが認められていたわけです。乱暴な言い方をすれば、10%程度の粗利を追加で得ていたということになります。
これを解消するためにインボイス制度が導入されることになりました。
インボイス制度では、請求書や領収書に『登録番号』や『適用税率』などの記載が必須になるのですが、この『登録番号』だけは課税事業者にしか付番されません。要するに、消費税の申告を行っている事業者にしか番号が発行されないわけです。
このインボイス制度で何が肝かと言えば、『登録番号などを記載した請求書や領収書が無いと、仕入れや経費にかかった消費税を売上の消費税と相殺させてあげない』というルールです。
要するに、『買手が最終消費者でない場合、その買手が最終消費者として消費税分をコストとして負担する』という制度に改めたわけです。
買手からすると、免税事業者からの仕入れは10%程度のコストアップになってしまいます。10%のコストアップは粗利が一気に削られかねないので、買手からすると大問題です。
そうなると、買手は売手が免税事業者かどうかを確認しなければなりません。1円でも多く稼ぐために汗水を垂らして商売を続けている事業者からすれば、免税事業者からの仕入れなんてとんでもないということになります。
こうすることで、免税事業者を課税事業者に転換するような流れにしたわけです。
一部の消費税の免税事業者にとっては死活問題
益税問題はけしからんと思う方もいるのでしょうが、果たして本当にそうなのでしょうか?
町中で、1人や夫婦2人でやっている小さな食堂や工場はありませんか?
この様な所の中に、明らかに安い所はありませんか?
何故安くやっていけるかと言えば、10%分の益税が発生しており、食べていくだけなら支障が無いというパターンがあるからです。
似たような形で、年金を貰っているので安くしても生活だけなら問題無いというパターンもありますね。益税と年金の合わせ技という事業者もいるでしょう。
こうすれば、安くても事業をやっていけるわけです。
しかし、今回のインボイス制度でこの益税が排除されてしまうと話しは変わります。手取りが減れば、対策を練る必要があるからです。
個人事業主のインボイス登録は進んでいない
こんな状況ではありますが、東京商工リサーチの記事によると、個人事業主のインボイス登録は1割程度しか進んでいないようです。
感覚的にそうだろうなとは思っていましたが、やはりそうですよね。
国税庁もインボイス制度の周知にかなり力を入れているようですが、開始から数年は混乱が続きそうな気がします。
当然、税務調査でも色々と問題が出てくるでしょう。
インボイスが全く関係無い免税事業者もある
今回の件で、免税事業者でも影響を受けない所があります。学習塾などお客さんが必ず最終消費者の場合です。
お客さんが最終消費者の場合、そもそも消費税の申告の余地が無いので払った消費税を相殺するという話しになりません。だから、お客さんからすれば、インボイスを貰う必要性はありません。
必要性が無いなら、インボイス制度に登録することは無いでしょう。
仕入先の登録番号の確認をお忘れ無く
2023年10月1日からインボイス制度は始まります。
自分の仕入先が『登録番号』を持っているかどうかは、粗利の変動に直結してしまうので、事業者の皆さんはちゃんとチェックしましょう。
場合によっては、免税事業者との取引を打ち切るという経営判断も必要かも知れません。
暫くは激変緩和の経過措置がありますが、数年で無くなります。
早い段階から動きましょう。